皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第6回 「として法」――ツールのない調べ物にツールを用意する

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■1ジャンルあたり150冊のレファ本があるけれど

国会図書館のレファレンス室(館内的には専門室と言う)へ行くと体感できるが、いろんなジャンル、主題にいろんなレファ本がすでにある。

私がいた人文総合情報室には約1万5千冊のレファ本があるが、この部屋でカバーしていた知識ジャンル*は、NDC(日本十進分類法)でいうと、0類、1類、2類、3類一部、5類一部、6類一部、7類、8類、9類と、かなり広かった。

これから考えると、010図書館学、380民俗学、520建築学といった、(左から)2ケタ目をとりあえず知識ジャンルの1つとすると、この世に100個の知識ジャンルがある換算になり、1個の分野に150冊宛のレファ本がある、という単純計算が成り立つ。

もちろん実際はそれぞれ分野でかなり違う。私は個人で書物論020のレファ本を古本でかなり広くあつめたが、100冊ぐらい。人文のレファレンス室にある020の和書は1500冊ほどあるがそこから目録類を抜くと辞典・事典系のレファ本は150冊くらいのようだ。

レファ本150冊で書物論のかなりのことがわかる。けれど、1ジャンルあたり150冊のレファ本でも答えがでないこともある。ここで、「見当たりません」と質問を謝絶してしまうのは専門家――主題専門家は他ジャンルのレファ本を知らないでよい――かニワカ司書である。一方でベテラン司書はなんやかんや、答えを出してしまうことがあるのは、他ジャンルのレファ本も質問回答に使えるからである。では、それはどのようにしてだろうか?

 

*図書分類理論でいう「知識分野」。英語でdiscipline。学問分野だけでなく、芸術界、業界、趣味界など全知的分野の総称。一般図書分類法は、この世のすべてのディシプリンを集め、配列して作られた。

 

レファ司書のレゾン・デートル

こんな質問があった。「丸善の雑誌カタログはないか? 昭和戦前期に国内でどんな洋書の美術雑誌が読めたのか知りたいのだ」と。

図書館で販売書誌は保存しない→「見当たりません」→はい終了でも間違いではない。事実そのようにして「成績」を上げることもできる。けれど、この質問をベテランだった友人にしたら、さらっとこんなふうに答えてくれた。

「『日本美術年鑑』の昭和2年版から7年版には、文献の項に、「外国美術雑誌」がありますよ。それに載っていれば、当時、国内でその洋雑誌が読めたことになります」と。

1対1対応でレファ本を憶えることは、基本としてはアリだけれど――だから司書課程ではそういった教え方をする――しかし、それでは答えが「見当たりません」とすぐに出てしまう。逆に言うと、ちゃんと答えを出してくるベテラン司書は、書物のこと→書物語事典という1対1対応で答えを出していない、ということになる。これには質問をインタビューで答えが出そうな方向に変換する術もあるけれど、一方で、ツールを本来の開発意図とは違う使い方で使う、という技法をベテランは体得していて、それを使っている。

さきほどの例でいうと、「丸善の古いカタログはないか?」という質問を「当時、どんな美術雑誌が国内で読めたか?」と変換する会話術も大切だけれど、「洋文献も載る美術の専門書誌」を、「当時、国内でどんな洋雑誌が読めたかのリスト」として使う方法も知っていてこそ、質問に答えることができたわけである。

ここで私が言いたいのは、古い美術年鑑の変わった使い方があるよ、ということではない。AをA以外のB「として使う」方法もありだ、と言っているのだ。

時々、1対1対応をたくさん憶えることでレファ回答できると錯覚する向きがあるけれど、ベテランはそんなことはしていない(もちろんツールをたくさん知ってはいる)。ユーザだってバカでないのだし自分で懸命に調べて、それで分からないから「レファ質問」という形で聞いてくるのだ。

レファ本を本来の開発意図と違う形で使う活用法をどれだけ知っているか、というのがベテラン司書の重要なノウハウだったのである。この技法を仮に「として使う法」ないし「として法」と呼んでおきたい。ちなみにレファ司書ならぬ主題専門家は、こういった開発意図以外でツールを使うことに否定的な傾向になる。

 

■事例いろいろ

こういった「として使う法」はいろいろある。

・戦前の百科事典は中項目〜大項目主義で、そもそも知りたいことが見出しや索引に出ない。ではどうするか?→『日本国語大辞典』を引く。つまり百科事典として国語辞典を引く。

・戦前期の本棚の図はないか? 新聞紙DBなど広くあたったのだが、見当たらない。→ネットにある特許DBを、机の分類で引く。図が出てくる。特許DBを戦前器物画像DBとして引く。

・明治からの古本屋の店舗数はわからないか? →出版論がらみの本には意外にも全然ない。→東京だけの数値だが、警視庁統計に明治20年代からずっと出ている。警察統計を出版史統計として引く。

・『延喜式』の注釈本が出たね。買おうか買うまいか →百科全書として使える古代法典及びその注釈なんだから買うべき。つまり、古代の六法全書注釈を古代百科事典がわりに引く。

・日置英剛編『新國史大年表』(国書刊行会, 2006-2015)が完結した。あれは何に使えるの? →とにかく細かい日本最大の年表だけど、すべて事項に典拠史料がついているから、新聞紙がない時代、すべての事件の史料索引として使えるんだよ。

・『文淵閣四庫全書オンライン版』で手元の漢文の典拠を検索したい! けど契約してないから引けないんだよなぁ……。→諸橋轍次『大漢和辞典』(大修館書店, 1989-1990)で熟語を引き当てればそこに初出が載っているよ。諸橋大漢和は、中国古典の索引としても使えるんだよ。

・数年前まで楽譜総合目録はなかった。ではどうしていたのか? →洋楽なら音楽系大学の単独館OPACを順番に引く。J-popなどならNDLの目次DBを楽譜限定にして検索する。

NDLデジコレにある官報DBを、新聞DBとして引く。

・NDLは前近代に弱いから、NDL典拠も前近代の人物に弱い。ではどうするか? →長澤孝三 編, 長澤規矩也 監修『漢文學者總覽 改訂増補』(汲古書院, 2011)と、国学院大学日本文化研究所 編『和学者総覧』(汲古書院, 1990)をセットで引いて、前近代日本人著者名典拠の代用にする。

・明治期の出版法制の形成過程がさっぱりわからない。→NDLデジコレにある『法規分類大全』の出版の項目を順々に読んでいくと、全部わかる。おそらく○○法制は全部わかる。

などなど。

 

■要するに

こんなひねくれ事例をたくさん憶えてないといけないの? ってわけでもない。上記事例を眺めていると一定のパターンがあるのに気づく。

 

○ジェネラルなツールのスペシフィックな使い方

NDC分類で0類になるようなツールや、NDCで形式区分に列挙されているようなもの(書誌、年表、辞典、名簿、便覧、諸表、図鑑、地図、カタログ、年鑑、統計、団体史、教科書、全集、資料集)といった総記的なもの(英語でgeneralia)を、特定の用途的に使うパターンが多い。NDL目次DBを楽譜DBの代わりに検索する、といった場合がそれである(もちろんこの場合に、分類「楽譜」のみにチェックを入れる、といったチップスをあらかじめ知っておくことも必要)。

総記系のツールは、漫然と何でも出る、と思うのではなくて、これは何かの特定用途に使えないかしら、といつも考えておくと良いのである。

 

○他ジャンルに転用して使えるツールに気を配る

0類以外の特定の主題ジャンルでも総記的に使えるツールが多いジャンル、少ないジャンルがある。

ごく最近までのマンガ研究がそうであったが、学問として確立する前の知識ジャンルは、資料――コミック本やコミック雑誌は山のよう――もあり、調べるニーズもそこそこあるのに、レファ・ツールが僅少という状況になる。

例えば宮崎駿についての評論であれば、総記系のNDL雑誌記事や、皓星社ざっさくプラスを引くのが基本だが、さらに国文研の国文学論文目録データベースが使える。

こういった、0類(総記)以外に分類されるツールでも、総記的に使えるものはないか、常に気を配っておくと、いざという時、役に立つ。レファレンス・チップスの連載、第1回で紹介した「人文リンク集」には、そういった総記ではないが総記的に使えるツールを優先して登録してあった。

調べ物をする際に本当にとことん調べたい、と思うなら、レファ本やDBを、編纂/開発意図とどれだけ違う用途で使えるか検討すべきである。そうすることで、既存の調べ以上の調べに到ることができる。主題専門家としても、他ジャンルのツールでどれだけ自分の専門の調べ物ができるか知ることが、厚みのある研究ができるかどうかにかかってくるだろう。

 

■司書向けのコメント

できれば、どこかにレファ司書ならではのツール批評として、「として使う法」つきのツール解題をためておくからくりがあるとよい。本来なら、日本図書館協会の出している「日本の参考図書」や、NDLの参考図書紹介DBがそれにあたるのだが、長年関与しておいてなんだが、本来の開発意図の要約とその諸元くらいしか書けていないと思う。

他用途に転用する「として使う法」以外にも、ツールはセットで使う場合も多い。ツール単体のことを知っているだけでは、言い訳としての参照文献リストに使えても、答えにつながらないと思う。最近NDLの調べ方案内が、文脈寸断的なツールの列挙書誌になる傾向にあるのはいかがなものか。

 

■次回予告

次回のテーマは、《答えから引く法:頼朝の刀の銘は?》。知りたい事柄に近づく第一歩としてのレファレンス・チップス、次回もどうぞご期待ください!(皓星社編集部)

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務。2021年に退官し慶應義塾大学文学部講師。専門はレファレンス論のほか、図書館史、出版史、読書史。共著に『公共図書館の冒険』(みすず書房)ほかがある。詳しくはリサーチマップ(https://researchmap.jp/shomotsu/)を参照のこと。

 

☆本連載は皓星社メールマガジンにて配信しております。

月一回配信予定でございます。ご登録はこちらよりお申し込みください。

また、テーマのリクエストも随時募集しております。「〇〇というDBはどうやって使えばいいの?」「△△について知りたいが、そもそもどうやって調べれば分からない」など、皓星社Twitterアカウント(@koseisha_edit)までお送りください。