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年報『近代出版研究』を創刊しました。在野研究者による書物論集です。

年報『近代出版研究』を創刊しました。在野研究者による書物論集です。

小林昌樹(近代出版研究所)

 

・東京堂で週間ベスト「1位」になったこと
 4月はじめのことなのですが、東京堂書店(神保町すずらん通り)で恒例の、週間ベスト総合の1位に、私が出した『近代出版研究 2022』(皓星社発売)が躍り出て【図1】、出した自分が一番びっくりしました。本屋大賞を受けた『同士少女よ、敵を撃て』などを抑えての1位で、ネット民も「東京堂、こえーよ」と驚いていましたが(おそらく褒め言葉)、ちょっと考えてみると、ここはむしろ「読書人の東京堂」というフレーズが予言として成就している気がします。読書人は万巻の書だけでなく本を読むこと自体にも興味があるようです。

・掲載記事――明治以降、本のこといろいろ
 この『近代出版研究』、外見は学術雑誌っぽいですが、かなり軽く書かれたエッセーもあり、楽しく読めるものが多いです(ガチの学術的論文もあります)。
 題材は、近代の本や読書についてのものをいろいろ取り揃えました。立ち読みの歴史、独学書の歴史、古本の思い出、ハガキ職人系民俗学者の話などですが、なかでも、江戸の大書肆がなぜ明治初期に没落したのかについて、数少ない専門家を招いて話してもらった座談会「明治期に活躍した出版社の近代性とは何か」は、くだけた会話で進んだので、読みやすいかと思います。他にも「図書館」ということばの成立史では、「図書」ということばの意味変化――いまは「書籍」や「本」の同義語となっていますが、最初は違うようなのです――が背景として論じられています。

・書いた人たち――古本つながり
 この4月に創刊した『近代出版研究』創刊号は、私の主宰する同研究所の所報です。研究所といっても、出版史関係の図書・雑誌コレクションと、ちょっとした作業場という構成なのですが、掲載論文の筆者さん達を見ればなんとなくわかるように、私の長年の趣味、古本あつめで知り合いになった方々が大半を占めています。大学教員もおられますが、こちらの方々も古本活動を通じて仲良くなった方がほとんど。古本人脈というか古本フレンズというか。

・使命――近代出版史というか、近代書誌学というか
 実は近代日本の出版を専門として大学にポストを得た人というのは、これまでに2,3人しかいません。いまの我々、本好きが買っている古本のほとんどは、近代古本(つまり江戸期以前の版本や写本でない)なのは皆さん重々承知でしょうが、残念なことに近代出版物を真正面から研究する学問分野が日本にまだ確立していないと、私は見ています。
 ホントなら日本書誌学が近代本を扱ってよさそうなものですが、書誌学が日本に出来た戦前、早々と近代本はオミットされてしまい、書痴・斎藤昌三が改めて近代書誌学が必要だと言ったのが1959(昭和34)年、さらにまた、かの谷沢永一が日本近代書誌学三部作に取り掛かりながら逝いたのは2011(平成23)年のことでした。

・趣味人の活躍し時
 けれど、なにか新しい学問ジャンルが生まれる際には、当然ながら職業的学者はほぼいないわけです。最近できつつあるマンガ学では、実作者やマニア、趣味人がその初期の活動を支えていました。ひるがえって近代本の研究といえば、それこそ古本マニアに大いに期待される、ということになります。
 私は本に関する実務――といっても司書ですが――は結構やったので、今度は本について研究がしたくなり、昨年、私設研究所を作ったのでしたが、一人で研究するだけではちょっとさみしい。そこで知り合いの人々に呼びかけたところ、いろいろな論考が集まったというわけです。1990年前後に日本文学界隈ではやった研究同人誌みたいな感じに仕上がりました。

・この年報をどこで買えるか
 いわゆる査読誌ではもちろんないわけですが、それでもせっかく集まった研究成果を広めたいということで、かねてから「本の本」に意のある皓星社さんに発売をお願いする形で全国にも流通するようにしてもらいました。ISBNもつけてもらっています。刊行頻度が年報なので、委託配本でなく返品可能の注文制となっています。お近くの本屋さんにご注文ください。全国どこの本屋さんでもお取り寄せいただけます。Amazonやhontoなどのネット書店でも買うこともできます。

・「明治文化研究会のようだ」
 知り合いとこの年報の合評会をしたら「年報だからアナールだね」などと言われましたが、いちばん嬉しかったのは「まるで明治文化研究会のような雰囲気がある」というものでした。彼等も大正末の大震災後、古本集めから研究を始めたのです。
 書物論の大家、紀田順一郎さんに献呈したら、お褒めの返信をもらい、これは個人的に嬉しかったことでした。私が若い頃から私淑していた方なので。日本では紀田さんが古本屋探偵小説を開発したのを忘れてはなりませんぞ。
 ともあれ、東京堂で瞬間1位になったのは、雑誌ならではの雑多感があるからかと思います。埋め草のコラム記事などもありますので、どうぞ手に取ってみてください。それこそ「立ち読み」の歴史を立ち読みしてみるのもよろしいかと。

 
 
 
小林昌樹(こばやし・まさき)
 1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業、同年国立国会図書館入館。2021年退官し近代出版研究所主宰。近代書誌懇話会代表。専門は図書館史、近代出版史、読書史。
執筆リスト

 
 
 

近代出版研究 創刊号
発行:近代出版研究所
発売:皓星社
定価:2200円(税込)
判型:A5判並製288頁
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774407623/

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